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● 朝鮮から渡来した破裂弾

 『もののけ姫』に登場する石火矢の弾丸は、時折着弾と同時に光を放って火薬が爆発する。つまり、単なる鉛弾でなく、火薬を詰めた破裂型の鉛弾もあったと思われる。この為、発射時の暴発は撃ち手の命とりとなる。実は、これも映像上の効果を考慮しての監督の独創ではなく、史実に裏付けられた設定である。
 当初の筒型火器は命中精度が低く、直接的な戦果が上がるような兵器ではなかった。実際の兵器としての有用性よりも、爆発音と火光によって敵を恐れさせることが主目的であったらしい。このため、中国では「神器」と呼ばれていた。当初より破裂弾も作られていたらしい。
 また、朝鮮では中国の明(一三六八〜一六四四)代以前に筒型火器が伝来し、以来「銃筒」として様々なヴァリエーションの手持ち式火器の開発を行っていた。独自の技術で命中精度も上げ、一五〇〇年代には「震天雷」と呼ばれる大形破裂弾も開発されていた。豊臣秀吉軍の第一次朝鮮出兵(一五九二年「文禄の役」)の際には「震天雷」の犠牲になった兵が三〇人を越えたと言う。
 作中の弾は、朝鮮製の破裂弾(震天雷の原型か)を基に「師匠連」が開発したものか、あるいはエボシタタラが独自に開発した新型弾かも知れない。

●「師匠連」―「唐傘」「石火矢衆」は韓鍛冶か?

 『もののけ姫』では「師匠連」と呼ばれる謎の組織の存在が語られる。大和朝廷と密通し、エボシ御前に指導的影響力を及ぼす存在らしい。ジコ坊はその一員であり、戦闘プロフェッショナルらしき「唐傘」、石火矢に精通したコマンドらしき「石火矢衆」四〇名を配下に持つ。
 「師匠連」の組織実体は作品では語られず、謎のままである。シシ神の首を狙っていた理由も、朝廷の命であったからだけなのか、独自の思惑があったのかは不明である。そこで、その実体を類推してみたい。
 大量の石火矢を輸入し、実践経験を詰んだ独立部隊を有する組織が守護大名にあっただろうか。増して天朝と密約を交わして暗躍する組織となれば、かなり特殊な勢力である。ジバシリなど異形の山民も動員出来るのであるから、その勢力範囲も広く、古来からの特殊な権威を持つ集団なのかも知れない。ジゴ坊は、身なりこそ僧侶のようだが、布教活動をしている風でもなく、むしろ特殊工作部隊の現場指揮官のような役割を担っている。
 そもそも「師匠連」という名称は、宗教教団的なイメージよりも、職人集団的イメージを連想させる。ここにこだわるならば、師匠連は「韓鍛冶」ではないかという推測も成り立つ。
 「韓鍛冶」とは、朝鮮から渡来した製鉄・鍛冶職人である。彼らは、太古の昔に日本に移住し、倭人に製鉄技術を伝えた。日本人の製鉄の「師匠」である。彼らは数世紀を経て日本人の中に同化していった。しかし、彼らの末裔には廻船民として故国・朝鮮と日本とを往来する商人となった者もあっただろう。中には、中国・朝鮮の最新製鉄技術を常に伝える廻船民、乃至は武器商人もいたかも知れない。または、朝廷に石火矢の一大プラント建設を持ち込もうとアピールしていた新たな渡来人がいたかも知れない。これらのいずれかの勢力が自ら「師匠」と名乗ったとしても不思議はない。
 いずれにしても、師匠連は石火矢の威力を示して朝廷から独自の位置を認められていたと思われる。彼らが石火矢の量産工場として目をつけたのが出雲のエボシタタラであり、その威力を天下に示すためにシシ神退治を(天朝、エボシ、アサノ公方の三方に)焚きつけたとも考えられる。師匠連が、朝廷からの加護で満足していたのか、朝廷の裏支配までも目算に入れていたのかは定かではない。
 いずれにせよ、権威の零落していた朝廷が、武家社会の粛正を願って、最新の武器である石火矢に飛びついたのは考えられる話である。そして、エボシタタラが兵器量産工場として完成してしまったら、その後に続く近世の歴史は大きく変わってしまったことであろう。たとえば、織田信長軍以前に、朝廷が間接的に指揮する鉄砲隊が出来ていたかも知れない。そうであれば、戦国時代の勢力地図は更に複雑になっていたことであろう。まさに「国崩」の惨禍が続いたわけである。

参考文献
『火縄銃』所荘吉・著(雄山閣)
『図解古銃事典』所荘吉・著(雄山閣)
『鉄の文明史』窪田蔵郎・著(雄山閣)
『平凡社大百科事典』(平凡社)