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●女人禁制だったタタラ場

 タタラ場には女人禁制の厳格な掟があったという。作中の華やかな「タタラ唄(儀式唄)」も実際は男たちが歌っていたのである。高殿に入れる女性は「宇成」と呼ばれた飯運びの老婆だけであり、作業員たちの内儀(女房)は、タタラ場の操業中には髪も結わず化粧もしてはならなかったと伝えられる。いつ頃からこの風習があったかは不明だが、かなり古くからあったらしい。その形成要因を、未開地域の伝承に求める説もある。
 アフリカのタンザニアやスーダンなどの各地に残る伝承によれば、黒石や黒砂から武器や農具を取り出す製鉄民は、呪術師やマジシャンのように扱われ、「文化英雄」として神聖視されていたらしい。(エジプトでは「ホルス神の使者」という伝承もある。)この為、鉄には神秘的エネルギーが宿っており、製鉄民と一般民がふれ合うことは危険と見なされていた。これが転じてアフリカにおける操業中の性交禁止や日本の女性忌避につながったと見る説がある。
 日本には、相撲の土俵など、神聖とされる場所が女人禁制であるケースが他にもあるが、これにも何らかの関連があると思われる。
 月経時や出産時の女性を特に忌避する傾向があったとも言う。これを「赤の穢れ」「血の穢れ」と解釈する説もあるが、現代の女性差別に直結するものなのか、別の意味があったのかは判別出来ない。
 赤とは逆に黒色は歓迎され、男達は黒衣で製鉄に臨んだとも言う。作中ゴンザらが、黒っぽい衣裳を着ているのはこの為ではないか。
 作中の設定は、下克上や婆沙羅のはびこる時代の風に乗じて、出生不明の女性指揮官が女性製鉄民を率いていた、という大胆な創作である。それは、エボシ御前の卓越した政治力と組織力を裏付けるものであるが、同時に、室町期の女性職人の地位の高さを考慮に入れた創作でもある。女性職人忌避は戦国時代に入って加速する。
 もしかすると、女人禁制の風習は戦国時代以前は厳格なものでなかったのかも知れない。後述のように、タタラ製鉄の開祖は女性の神様であったという伝承がある。タタラの神が女性であるから、返って女性が敬遠されたとも言う。

参考資料
『和鋼風土記/出雲のたたら師』山内登貴夫・著(角川選書)
『街道をゆく7/砂鉄への道』司馬遼太郎・著(朝日文庫)
『この国のかたち(五)』司馬遼太郎・著(文芸春秋社)
『鉄の語る日本の歴史(上)(下)』飯田賢一・著(そしえて文庫)
『鉄の文明史』窪田蔵郎・著(雄山閣)
『鉄の民俗史』窪田蔵郎・著(雄山閣)
『民俗・民芸双書70/鑪と鍛冶』石塚尊俊・著(岩崎美術社)
『日本古代文明の探求/鉄』森浩一・編(社会思想社)
『たたら/日本古来の製鉄技術』黒岩俊郎・著(玉川選書)
『郷土史事典/島根県』藤岡大拙・編(昌平社)
『緑と文明』朝日新聞社・編(朝日新聞社)
『朝日百科 日本の歴6/中世から近世へ』(朝日新聞社)
『日本史資料総覧』村上直・高橋正彦・編(東京書籍)