1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44


●タタラ場の立地条件

 タタラ製鉄の集落を構えるための立地条件は、何より水と樹木に囲まれた地であることである。
 まず、膨大な砂鉄を採掘出来、木炭の原材を提供する森林の際であることが必須条件である。また、鉄塊の水冷作業が出来、船輸送に便利な水際でなければならない。
 また、急激な森林伐採により山崩れや鉄砲水などの人為的災害を引き起こす製鉄民は、平地の稲作農民からは嫌われていた。この為、人里離れた山中で作業を行う方が都合が良かった。中世以前は、地と水のせめぎ合う地や、人気のない山奥は「人と神々の境界線」として崇拝する傾向が強かったため、「神ががりの職能民」としての位置も保てたのである。
 作品の設定と描写は、これを忠実に再現していると言っていい。ただし、実際のタタラ場は、周囲を防塵・防災のために松などを植林した里山に囲まれており、資源枯渇を補うために禿山には植林を行っていたらしい。つまり当時の鉄製民は、作中ほどすさまじい環境破壊はしていなかったのである。これは、監督が現代的環境破壊を意識した誇張表現とも考えられる。

●高 殿

 煉瓦作りや石作りの建築技法が伝わらなかった日本では、専ら木造建築が発展した。建物は火災に脆く、炎が高く巻き上がる炉を覆う建物を作るのは困難であった。それには高い天井を支える高度な建築技術が必要だったのだ。このため、タタラ製鉄は露天で行う「野鑪」のみであった。
 江戸時代中期の安永年間(一七七二〜一七八〇)にまで下って、ようやく全国に高い吹き抜けの天井を持つ「高殿」と呼ばれる建物が公に登場する。ただし、これがいつ頃開発された建築物なのかは不明である。
 作品中ではすでに高殿が存在し、重要な位置を占めている。これはおそらく監督のフィクションであると思うが、今後の考古学の進展によっては、製鉄民の歴史が作中のように書き変わる可能性もないとは言えない。
 ともあれ、作中に登場するのは、当時の最先端技術を集結したタタラ場であったのだ。