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● アサノ公方は浅野氏か

 各地の戦国大名は、鉱山と製鉄民の獲得を競ったと言う。
 作中には、地侍たちの黒幕として「アサノ公方」なる侍大将がいると語られる。実体は不明であるが、エボシタタラの経営権を独占しようと狙っている。地侍たちは、エボシ御前がシシ神殺しに出陣した隙に、攻略戦を仕掛けるわけだが、これが朝廷や幕府と密通した作戦なのか、独自の諜報ルートがあったのかははっきりとしない。
 いずれにしても、まだ正式な軍を組織し得ていない新進の戦国大名と思われる。(尤も舞台が室町中期以前だとすれば「戦国」とは言えないが)
 この「アサノ」は、史実に照らせば尾張(愛知県)の浅野氏と受け取れる。
 浅野氏は清和源氏の子孫で、美濃(岐阜県)で氏を興し、後に尾張に居を移して織田・豊臣に家臣として仕えた。室町末期から安土・桃山時代には有名な武将・浅野長政(一五四七〜一六一一)がいた。長政は、秀吉の五奉行の首座を務めた。その子、幸長(一五七六〜一六一三)は、徳川時代に紀伊(和歌山県)に封ぜられ、後代には広島藩の藩主となった。忠臣蔵の舞台となった赤穂は浅野氏分家の城下であった。
 実在の浅野氏は、後世に亘って西日本を支配したことから、当時すでに尾張から出雲に手を延ばしていた可能性もある。早くから鉄砲に強い関心を示した信長に近しい浅野氏が、タタラ場独占を狙うのは当然と言える。作中の「公方」は、浅野長政の先代かも知れない。

参考資料
『日本中世の民衆像−平民と職人−』網野善彦・著(岩波新書)
『日本論の視座−列島の社会と国家−』網野善彦・著(小学館ライブラリー)
『職人歌合』網野善彦・著(岩波書店)
『異形の王権』網野善彦・著(平凡社ライブラリー)
『無縁・公界・楽』網野善彦・著(平凡社ライブラリー)
『日本中世に何が起きたか/都市と宗教と『資本主義』』網野善彦・著
(日本エディタースクール出版部)
『日本の歴史をよみなおす』網野善彦・著(筑摩書房)
『日本の女性風俗史』切畑健・編(京都書院)
『図説日本文化の歴史6/南北朝・室町』(小学館)
『東京国立博物館鑑賞シリーズ7/日本の染色』(東京国立博物館)
『詳述/日本史研究』笠原一男・著(山川出版社)
『カラーブックス/刀剣』小笠原信夫・著(保育社)
『原色日本の美術25/甲冑と刀剣』尾崎元春・佐藤塞山・著(小学館)
『広辞苑/第二版補訂版』新村出・編(岩波書店)