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●婆娑羅の風
一方、「婆娑羅」と呼ばれた派手な模様の衣裳も流行していた。この種の美装は特権ある民にしか許されていなかったが、地侍や悪党・盗賊などに非合法で流行した。その起源は、刑期を終えてから使庁職に従事する元罪人が、派手な装束と異様な形の棒を持たされて平民と区別されたことに由来する。「放免」と呼ばれたこの人々には特別な資格が与えられていたらしい。
各々が勝手に派手な衣裳をまとった盗賊連合は、さぞかし異様な迫力があったことだろう。同時にこれは、既に幕府や朝廷に悪党を取り締まる力が無くなっていることを象徴している。室町時代には「婆娑羅大名」と呼ばれた、悪党の成り上がりも多数出現した。
暴力・略奪・退廃の象徴として流行した婆娑羅は、時代の境目に吹いた荒々しい風であった。作品に登場する小悪党の地侍たちの無秩序な装束にも、婆娑羅の影響が見てとれる。
しかし、宮崎監督によれば、「エボシ御前そのものが婆娑羅だ」と言う。監督は「バサラの気風、悪党横行、新しい芸術の混沌の中から、今日の日本が形成されていく時代」(前述『演出覚書』参照)とも記している。監督の婆娑羅についての解釈は、必ずしも「悪」(悪は強者の意とする説もある)一辺倒ではなく、混沌とした社会秩序を破壊して独自の体系を打ち立てるという、革命的なイメージも含まれているようだ。
作中には、様々なタイプの笠が登場する。
蝦夷の村では、女の子たちが中央の尖った「市女笠」らしき笠をかぶっている。市女笠は、中世の女性が外出によく使用した笠だ。「市女」とは古くは女性商人の意味であったと言う。ただし、市女笠は山の先端が平らなものが多いが、これは尖っているので、あるいは別の笠かも知れない。
ゴンザ率いるワラットたちは、頭部全体を覆うような三角形の大きな笠をかぶっている。これは、「苧屑頭巾」と呼ばれた猟師・鷹匠用のカラムシ製頭巾や、「猟師笠」に似ている。
エボシ御前の笠は「韮山笠」を朱に塗ったもののようだ。
「韮山」とは、静岡県田方郡の町名であり、幕末に製鉄用の反射炉があった地である。砲術調練が盛んであり、砲術士専用の笠が開発された。それが韮山笠である。本来は黒漆塗りだと言う。当然、室町時代にはなかったと思われる。
砲術士でもあるエボシ御前の笠は、韮山笠の原型という解釈ではないだろうか。
室町期の刀剣には特色が多い。
南北朝時代には、権威を示す大ぶりの太刀が流行したが、次第に機能優先の小ぶりの先反り刀に取って代わられた。特に、抜くと同時に斬ることを目的として、刃を上向きにして腰に刺す「打刀」と、短刀の「脇差」が流行した。殺傷力に優れた打刀は、戦乱の時代を物語っている。
中期以降になると武器の需要が急増し、「束刀」と呼ばれた粗悪な量産品が出回る。一方、戦国武将の依頼で作られた「注文打」と言われる名刀も多く生まれた。伊勢の「村正」、美濃の「兼定」「兼元」などである。
作中の地侍たちは、流行遅れの太刀や束刀を使っていると思われる。
また、地侍たちは薙刀も扱う。薙刀は室町中期に最も多く使われた武器である。振り回すことで殺傷する薙刀には、特別の技能が必要だ。この為、戦国時代には、薙刀に代わって槍が大流行する。槍は体重をかけて突くだけなので誰にでも扱える武器であった。
各武将たちは、これらの武器の安定的確保のために、どうしても製鉄民や鍛冶を取り込むことが必要であった。

ジコ坊の原型?異類異形の人々。(「融通念仏縁起絵巻」上巻より異形の王権/網野善彦/平凡社)