テアと妹が北方の貧しい村に逃れてから、1年が過ぎた。
ふたりは、身寄りのない老婆の家に身をよせていた。
ふたりはよく働き、ヤックルは力強い手助けとなった。
テアは誰にも泣きごとを言わない強い娘だったが、シュナの身を案じると胸が痛むのだった。
帰ってこれるか行方も知れないシュナの帰りをずっと待ち続けるテアの姿は健気だ。
ある夜、突然テアは助けを求めるシュナの叫びを聞いたような気に襲われる。
村の入り口まで下りてみると、幽鬼のような人影を発見する。
シュナだった・・・。
シュナは記憶も、言葉も、名前も、感情すらも失っていた。
シュナが大事そうに首からさげている袋をそっと開いてみると、その中には金色の穂が入っていた。
テアの胸に熱いものがこみあげ、涙があふれそうになった。
シュナはついに「金色の実」を持ち帰り、無意識のうちに北の村までたどり着いたのだ。
シュナの身に何が起きたのか見当もつかなかったが、今度はテアがシュナを助ける番だった。
テアはシュナのための隠れ家と小さな畑を作り、シュナの分も働き、熱心に看病した。
シュナの畑からいっせいに芽が吹き出て、小さな畑のみどりがすこやかに育つにつれて、シュナの顔も明るくなっていった。
そして、ある夏の日に突然村を襲った嵐からシュナとテアが二人で必死に畑を守り抜いた時、シュナはテアの名を呼んだ。シュナが言葉をとりもどしたのだ。
ついに収穫の日がおとずれた。静かな深い喜びがシュナとテアを満たした。
いまも月は天空をかけめぐり、人狩りは地を俳個していたが、ひとつの試練をふたりは越えたのだった。
やがて、麦の収穫が広まれば、人間が人間を神人に売って麦をもらう必要もなくなるはずだ。
ふるさとの谷へもどるために、シュナたちはさらに1年、この地にとどまる。
収穫は次の大きな収穫となっていった。
出発の日が訪れたとき、金色の穂の半分は村の人々に残すことができた。
人々は別れをおしんだが、テアを村の若者のムコにできなかったことをなげいていた老婆も、亡夫の長銃をテアにくれるのだった。
シュナの旅はまだ終わらない。シュナたちはふるさとの谷へ向けて、村をあとにした。
おしまい
絵と文/ RAIN(1997.11)