シュナは険しい崖を下り、さらに西へ西へ向かった。
そして、ついに神人の土地へ足を踏みいれる。
そこは人の手の入っていない生命に満ちた別世界。暗いじめじめとした照葉樹林の森のようだ。
森におおわれた島をさらに奥へと進む途中、シェナはみどり色の巨人と出会う。
巨人は森の空き地に倒れると、動物の群れが巨人をおおって食べ始める。
さらに進むにつれ、シュナはたくさんの巨人たちとすれちがった。
みどり色の巨人たちは、まるで死に場所を求めて森の中へ消えていくようだ。
突然、シュナの目の前がひらけると、奇怪な建造物が、耕された耕地の中心にそびえていた。
シュナはその建造物を調べた。
石でも金属でもなく、不思議な弾力とあたたかさ。
建物の穴の中に踏み込んだ途端、恐怖におそわれる。
建造物だと思っていたが、まるで生き物のような息ぶきを感じたのだった。
この緑の巨人と有機的な建造物は最後まで謎だ。
緑の巨人は役目を終えると森の中で動物の餌になり、土に帰るのだ。
それは生態系の食物連鎖の端的な表現なのか?
有機的な建造物は、マンガ版「ナウシカ」シュワの墓所にも通じるものがあるように思う。
夜になると、帰ってきた輝く月が建造物の真上に止まった。
すると、その口のあたりから人間がそそがれ始めたではないか。
神人が人買いから集めた人々に違いない。
老人の語っていたことはほんとうだったのだ。
その巨大なかたまりが人間をすっかり飲み込み、しばらくすると建造物の穴から流れ出た水が耕地の水路を浸した。そして、水の中からあのみどり色の巨人が立ち上がり、口から金色の種を地面に蒔きはじめたのだった。
飲み込まれた人々が巨人に変えられたのか、水になってしまったのか、シュナには分からなかった。
しかし、いったい誰がこのようなシステムを創り上げたのだろうか?
神人とはいったい誰なのか?
人間を運んでくる月のような円盤の形は、シュナが西へ旅する途中で見かけた古代の遺跡と似ていた。
もしかすると、神人の土地とは人間が作物を作らなくなったとき、あるいは作物を作れないまでに環境を破壊してしまった時に、人間たちによって造られたものなのではないだろうか?
そして作物を供給するシステムが、人間自らの肉体を犠牲にして成り立っているとしたら、なんという皮肉なのだろうか。
蒔かれた種は、みるみるうちに花を咲かせ、穂が色づき始めた。
ここでは時間の進み方が違うようだ。ぐずぐずしてはいられない。
シュナは水路を越えて穂に手をふれた。その途端、巨人たちが叫び始め、「やめろ やめろ」という声がシュナの心の中で鳴りひびいた。
その叫びは、シュナの行為をするどく責め立てているかのようだった。
実際、シュナの行為は、人間が作り上げた神人への冒涜だ。
神人の土地の存在を拒否し、その機構をくつがえすことだ。
シュナはかまわず穂をむしりとった。
シュナの身体に衝撃がはしり、するどい痛みが心をつらぬいた。
それでもシュナは穂を握りしめ、歯をくいしばって森を走り抜けると、荒れる海へ飛び込んで行った。