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シュナの旅について  by RAIN

シュナの旅/宮崎駿著 アニメージュ文庫/徳間書店

 「シュナの旅」は実に不思議な物語です。私が最初に読んだときには、内容がさっぱり理解できなかったし、今あらためて読んでみても難解だと思います。

 「シュナの旅」はチベットの民話「犬になった王子」という物語を元にしているという「あとがき」を読んで、さっそく私はこの物語をさがしてみたのですが、残念ながら見つけることはできませんでした。

 あとがきによると「犬になった王子」は、穀物を持たないある貧しい国の王子が、ついに祖国へ麦をもたらすという民話なのだそうですが、宮崎駿氏は「チベットの人々が作物への感謝を込めて生み出したすぐれた物語」だと評価していました。

 では、それを題材にしたという「シュナの旅」はどうでしょうか。

 「シュナの旅」においても貧しい小国の王子シュナが麦の種を求めて西へと旅立って行きますが、私には単に穀物の伝承や、作物への感謝の気持ちを語っているだけとは思えませんでした。

というのは、「シュナの旅」の世界は、人間が作物を作ることをやめてしまった時代という設定であり、人狩りが人間を狩りあげ、人買いが人間とひきかえに神人から麦をもらうという恐ろしい舞台だからです。

 シュナが旅の途中で出会う老人は、金色の種についてこう語ります。「人はかつて金色の種を持っていた。みずから収穫し、みずから種をまき、みずからを生かしたものだったが、いまは種は神人しか持っていない。人は人間を神人に売り、死んだ実をもらうようになった」都城の商人は「畑などやるものはもういないよ。麦なら必要なだけ、他所から手に入るようになっているからな」と言ってました。

 「シュナの旅」の舞台は、「いつのころからか、もはや定かではない。はるか昔か、あるいはずっと未来のことだったのか」と冒頭にあるように、いつの時代か明らかではない架空の世界ですが、実は、いま私たちが暮らしている日本の姿にそっくりあてはまるのではないかという気がします。

 株式投機や土地投機などのマネーゲームにかまけ、食料品のほとんどを海外からの輸入に頼っている日本…。経済進出の名のもとに、東南アジア諸国の山々をはげ山にし、農水産物を根こそぎ奪ってきた日本。実際に食物を収穫した原産国の人々が、収穫したものを自分やその家族の口に入れるのではなく、他国へ売らなければ生活してゆけない現実を、私たち日本人はあたりまえのように見過ごしてきました。

 動物の中で、人間だけが労働し生産するわけですが、それは人間が他の動物と違うところです。動物が巣を作ったり、ェサを取ったりすることを、私たちは労働や生産とは言いません。では、人間が人間を売って成立している世界を支えている人狩りや人買いとは何なのでしょうか。人狩りや人買いは生産しないので労働とは呼べないと思いますが、投機によって成立する経済も似たようなものなのではないかと疑問に感じてしまいます。

 私は「シェナの旅」のモチーフに、現代の先進国・日本の産業文明と消費文化に対する鋭い風刺をを感じずにはいられませんでした。

 さらに、私の頭を悩ませたのは、神人の土地の存在とその神秘的な風景です。

 神人の土地、神人の存在、光輝く月、怪奇な建造物、みどり色の巨人…? 疑問はつきませんが、これらは一層「シュナの旅」の世界を難解なものにしています。これらには、きっと何かしら意味があるように思えてならないのですが、私には少し神秘主義的すぎてすんなり受け入れられない面もありました。

 ところで、シュナの住む谷の主食となっている穀物に、「ヒワビエの苗」というのが出てきます。小粒でいかにもまずそうなのですが、「ヒワビエ」という穀物が実際にあるのかどうか分からなかったので、もしかすると、「ヒワ」は雀より小さい小鳥の名称、それにアジア原産のイネ科の一年草「ヒエ(稗)」をかけたのではないだろうかなどと思いました。「ヒエ」を食べているということで、いかに貧しいか想像してしまいます。私は、以前読んだ「沖縄の歴史」という本で、江戸時代に薩摩藩に侵略された琉球の人々が、毒のある「そてつ」という熱帯植物を毒抜きして食べなければならないほど貧しかったという話を思い出しました。

 それから、シュナの谷で家畜として飼われている動物で、シュナの忠実な家臣であるヤックルも興味深いです。ヤックルというのはヤク(犁牛)をもじったものだと思うのですが、「天空の城ラピュタ」にもシータがゴンドアの谷で家畜としている動物として登場していますね。ラピュタ人の子孫の村ゴンドアの谷も、ヤクを飼育してるという事で、人の寄りつかない山岳地帯に隠れて貧しく生活しているという演出なのだと思います。

 ヤクはチベット原産の牛に似た獣で、野性のヤクは高地や山岳に住み、家畜として運搬用・食用・乳用などに使われているということです。ちなみに、映画「もののけ姫」にもヤックルが登場しますが、あれはヤクではなくて鹿ですから名前だけ流用したんでしょうかね?

by RAIN(1997.12)

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