井上氏は、すでに15年以上にわたって「イバラード」と呼ばれる架空世界の絵画や漫画を描き続けている。では、この「イバラード」とはどんな世界なのであろうか? 井上氏の最新画集「イバラード博物誌(架空社)」を観る限り、それは以下のような世界である。
・全 景…森や山の緑と市街が調和されて美しく、誰もが懐しく感じる不思議な場所。
・乗り物…路面電車/人の思いに反応。水を押し退け、石を浮かす不思議な動力で動く。 高速鉄道・ジーマ/輝く鉱物で出来ていて全虫両形が違う。
複葉機/4枚羽ではばたく昆虫のような飛行機。
飛行石/浮かぶ特性のある不思議な鉱石。これを磨いて航空機を作ることも。
・浮遊物…小惑星/大小様々の小惑里が空に浮かび、気ままに移動している。
ラピュタ/円錐型の飛行島。至るところに浮かぶ。時々脱皮して星雲を発生。 雲/7色の芙しい巨大雲、ラピユタ型の雲など。子供たちは雲を作って遊ぶ。
・街並み…店/ネオンの美しい夜店。小惑星売り、虫篭売りから異国特産100貨店まで。駅/駅前には壁のような巨大高層住宅や、立体型の芙しいアーケード街など。
回廊/空高く続く回廊。路地裏に伸びる回廊。階段による回廊など。
・動 物…めげ像/出会うと誰もがやる気を無くす不思議な子像。子供とは仲良し。
2脚走行鳥/森の友だち。知能が高く、鳥類の祖先に近い形状。
魚類/夜店で先られる虹色の小魚。アロワナに似た巨大魚。巨大ウミヘビ。虫/光を発しながら素早く飛びかうネオンのような高速ホタルなど。
・建 物…3角屋根の寺院風から、古代遺蹟風のアーチや塔、植物と混合したものなど。
・その他…タバコ/煙が星型になる不思議なタバコ。煙と光の色を楽しむルリタバコ。Bon―Sai/人口庭園の総称。日本の盆栽を巨木で実現したようなもの。ソルマ/人の意志に反応して変化する虚像。夜店で売られている。
こうして拙い表現で列挙してみると実に味気ないと思われるかも知れないが、それは井上氏の紡ぎ出す、素晴らしい色彩の洪水による「バラード」と出会つて頂くしかない。さて、右記にコンセプトを列挙しただけでも、「イバラード」が宮崎氏のファンタジー世界と共振することは想像出来ることと思う。モチーフの共通点も「ラピュタ」「飛行石」「雲」「複葉機」など数多い。1応断っておくが、井上氏のこれらのコンセプトに基づく諸作は1980年から1985年頃に描かれたものがほとんどである。思えば、この時期宮崎氏は「リトル・ニモ(公開時タイトル『ニモ』)」のイメージボードを描いていたわけだが、その1舞台案として「ラピュタ」が検討されていたと言う。不思議なことに、2人のアーティストが同時期にスウィフトの創造したラビユタを思い描いていたのである。もっとも、「天空の城ラピュタ」で宮崎氏の構想したラピュタと、井上氏の創造した「イバラード」のラピュタはかなり形態の違うものであり、表面的な影響は伺えない。
しかし、宮崎氏が「イバラード」世界の詳細なビジュアルイメージに強い刺激を受けていたことは事実である。宮崎氏は、93年の井上氏の個展で「上昇気流」など3枚のタブローを買い求め、すぐさまジブリの壁に掲げている。「物と物の作り出す空間の存在感が刺激的だ」と語っている(「月刊MOE/94年8月号」)。
